【その3】令和3年(2021年) 春蘭散策まとめ

前回から約一週間後のお話しです。

インスタでお友達になった熊兄さんと念願の遠征です。その1で私情を少しお話ししましたが、熊兄さんも辛い一年を乗り越えてこの日を迎えました。お互い約一年、散策どころか蘭の事を考える余裕すらありませんでした。僕はこの前の週に先に遠征していましたが、熊兄さんにとっては本当に久しぶりの散策でした。

最初に訪れた山では昭和にタイムスリップしたような光景が我々を出迎えてくれました。写真に映る草はほとんど春蘭です。一年の心の疲れが癒やされるような瞬間でした。初めての土地で蘭を見れるのかさえ分からなかったので熊兄さんにこの光景を見てもらえてホッと胸を撫でおろしました。

昭和の花畑から少し離れた狭い松林で熊兄さんが厚葉の実生が出る坪を見つけました。実生の割に大ぶりな葉で、やや矮性さを感じさせる葉姿でした。筒葉が出ているものもありました。

また少し移動すると小さな池があり、周囲はやや湿地の雰囲気で下草に紛れて蘭がたくさんありました。そのなかに茶花というか更紗花を見つけたのです。

実はこれは色花なのですが……

このときまだ東京の狭い部屋に住んでいた僕は置き場に限界を感じていたためとにかく増やさないという自己暗示が強くかかっていて、極力はっきりしないものは一期一会にしていました。

このときそういった心理状態から散策開始からすぐ色花が見つかるわけないと疑ったり、花弁に流れる更紗花特有の紫筋のせいで茶色く濁り、それが色があるように見せているのだろう…と自分に言い聞かせて撮影だけで立ち去ってしまうのでした……。

そして数分後…

二十メートルほど離れたコナラの下でまたもや苦悩が待っているのでした。

モヤシ花といえばモヤシ花なのですが…モヤシ花以上、黄花未満といった微妙な色合いで花弁に艶があるといえばあるという具合なわけなのです。かといって舌までしっかり黄色いわけでもなく、一度ここを離れて頭を冷やし、また戻って確認しても感想は同じで自己暗示が強力に作用して一期一会になってしまったのでした。

しかもカメラは色を強調したがるので写真を見返すたびに悩まされるのです。

この場所での散策がひと段落し、地図の印を頼りに二箇所ほど散策しましたが山がハズレて芳しくない時間が過ぎていきました。もちろんこの日も徒歩です。熊兄さんは長距離歩くのは得意なので一緒にいると僕の方が先にへたります。この前年にsharaさんと最後に歩いたポイントへ辿り着きます。時間的にもこの日もここが最後になりそうです。

なかなかの大輪の花があり平均的な普通花と比較しました。大きいという個性のある花ではありますが、やはりあと一芸あってほしいところです。

前年に見てない範囲が少し残っていて、そちらから僕を呼ぶ声が聞こえます。

「これどうかなー?」

熊兄さんが驚くべき発見をします!

紫花とまではいきませんが紫筋の強い更紗花でありながら捧心には兜を呈しているではありませんか。

兜はまだ変異の途中のようで芸は決まりきってはいませんが、経験談から山の兜花は継続する可能性が高いです。

古木からは兜のない花が出ており、これは一過性というよりも株が途中から芽変わりしたことを示唆していると考えられます。

蝶やイクタが一過性で出ることはありますが、捧心に硬化した塊状のものが現れるのは固定していると自分では解釈しています。というのも数年前に発見した兜花がまさにそうだったからです。

最後に熊兄さんがそばかすが出たような花を見つけますがこれも一期一会です。あと一芸ほしいところですが探そうとするとこの花でもなかなか見つからないものです。

この日も空は曇天ながらも心は晴れ晴れとしていたのは熊兄さんも同じだったはずです。駅のホームで帰りの列車を待ちながら、この日の写真を振り返るとやはりモヤモヤは消えません。熊兄さんに例の更紗色花の写真を見せると

「ちょうど俺もその花のこと考えてたよ」

後悔先に立たず……。まだ陽は落ちていませんでしたがこの日は熊兄さんと余韻を楽しみたく同じ列車で東京へ戻りました。

その4へ続きます。

山の神さまありがとうございました。

コメントを残す